実は、その当時は、一度会社を辞めて育児に専念し、落ち着いたらパートで働くのもありかな、なんて思っていたのです。女性社員が結婚・出産を機に辞めるのが主流だった中で、あえて産休・育休を終えて復帰したにも関わらず、実際のところはどっちつかずというか中途半端だったのですね。短大卒で入社して間もなく10 年目を迎えるという節目にあって、今はいいけれども、このまままた10 年後も同じ職場・同じ仕事でイキイキ働いている自分が想像できなくなっていたことも大きかったように思います。上司としては、私の口からまさか"辞める"などという言葉が出るとは思っていなかったようで、かなり驚かれました。しかし、私の悩みに真摯に耳を傾けてくれて、なんと「職掌変更試験を受けてみたら」と勧めてくれたのです。
一般職にあたる「執務職」から総合職にあたる「企画判断職」への転換を可能とする職掌変更申告制度は、その年にできたばかりでもあり、勧められて嬉しかった反面、職掌変更したら大卒や大学院卒の優秀な人たちと比較されるのでは、という不安があったことを覚えています。また、まだ2 歳と小さかった子どものことを考えると容易には決断できませんでした。そんな私の背中を押してくれたのが「オンリーワン・ファーストワンになれ。エニーワンにはなるな」という、直属の上司の一言でした。周囲の人と比較してナンバーワンになることを考える必要はない。だからといって、誰でもいいからこれをやっておいてと仕事依頼をされるような働き方はするな。たとえお茶汲みであっても、お客様にあなたがいれたお茶が飲みたかったから来た、と言われるようになれ。そう諭されて、自分なりに頑張ればいいのだと気持ちが楽になり、職掌変更試験に挑戦する覚悟が決まりました。
職掌変更試験に合格
絶対に仕事を続けるぞ!と決意
職掌変更は、文字通り大きなターニングポイントになりました。特に大きかったのは、「せっかく得たチャンス。もったいない過ごし方はできない。絶対に仕事を続けるぞ!」と、仕事に対する意識が大きく変わったことですね。
執務職の時は、総合職にあたる企画判断職はものすごく高度な仕事をしているように感じていました。事実、職掌変更試験を受けるかどうか迷っている時、別の上司からは「企画判断職に職掌変更したら、〇〇さんと同じ土俵に立つ事になるんだぞ」と、後ろ向きと受け取れる様な助言をもらう事もありました。
確かに、自分の担当業務をしっかりやれば評価される執務職に比べ、企画判断職は新規開拓がミッションなので、自ら考え行動する能力が求められます。給与形態も成功報酬の部分が大きくなるため、収入が減るリスクもあります。でも、職掌変更してみて、自分には企画判断職の方が合っているように感じています。いろんな方と会って話を伺うのも好きですし、責任と共に裁量権も与えられているので、時間の使い方も融通がききます。そして何より、仕事の幅も世界も大きく広がったことは嬉しい変化でした。
~働く女性たちへのメッセージ~
"やらず嫌い"はしないでまずはやってみる
ちょっと手を伸ばせば、世界は広がることを伝えたい
職掌変更をして数年後。2005 年に、現在のダイバーシティ推進室の前身である女性躍進推進室の専任者を募集する社内公募に、自ら応募して異動しました。思えば、職掌変更試験を受けるかどうか迷っていた頃には、想像もできない展開ですね(笑)。
職掌変更を考える女性たちから「執務職と企画判断職のどちらが得ですか?」といった質問を受けることも少なくありません。向き不向きもあるので、一概に変更した方がいいとか悪いとかは言えません。大切なのは「どちらが得か」ではなく、「自分がどういう働き方をしたいか」ということです。過去の私のように「自分には定常的な仕事の方が向いている」と思い込んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。少しでも新しい仕事に興味があるならば、やらず嫌いにはならずまずは挑戦してみることをお勧めします。やってみたら、思いの外"できた"ということもありますし、世界や仕事の幅の広がりを実感するなど、新たな自分の可能性が見つかることもありますから。
一歩が踏み出せず悩んでいた私の背中を押してくれた上司と一緒に仕事をしたのは、たった1 年未満でした。でも、今も私にとってかけがえのないメンターです。そして、私もまた、チャレンジしたい女性たちの背中を押せる人間になりたいと思っています。